相関×勝ち筋検証2026-06-29 公開
ビール出荷量と株価の相関は「同業でも真逆だった」——4社を2018〜2026年で検証
「ビールが売れればビールメーカーの株が上がる」——直感的には正しそうです。では国税庁の酒税課税移出数量(ビール)と大手4社の株価は、実際にどう連動してきたのか。2018年4月から2026年2月(有効サンプル55〜63ヶ月)で検証すると、アサヒGHDとサッポロHDは正相関(出荷増→株高方向)、一方でキリンHDと宝HDは負相関(出荷増→株安方向)という、同業内で方向が真逆の結果が出ました。「ビール株は同じ指標で動く」という思い込みが過去データで崩れた記録です。
本記事は過去データの検証です。ここでいう「連動した」は、検証期間に統計と株価の前年同月比が一定の方向に動きやすかったことを指し、将来の値動きを意味しません。特定銘柄の現在・将来の売買を勧めるものではありません。相関は「買いサイン」ではなく、検証対象を絞る入口(仕分け装置)として扱います。
本記事の情報は情報提供を目的とし、特定銘柄の売買推奨ではありません。過去データは将来を保証しません。投資はご自身の判断でおこなってください。
| わかること | わからないこと |
|---|---|
| ビール出荷量と相関の方向が銘柄ごとに違った事実 | 今後の出荷量と株価の動き |
| 正相関・負相関それぞれの銘柄と考えられる背景 | 現在買うべき銘柄・売るべき銘柄 |
| 「同業株=同じ指標で動く」が成立しなかった過去事例 | 個別の売買タイミング |
| n=55〜63の中期測定という限界と射程 | 空売りを勧める銘柄 |
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 検証テーマ | 国税庁の酒税ビール課税移出数量と大手4社の株価は同方向に動いたのか |
| 正相関(出荷増→株高方向) | アサヒGHD(r=+0.53)・サッポロHD(r=+0.46) |
| 負相関(出荷増→株安方向) | キリンHD(r=−0.35)・宝HD(r=−0.37) |
| 市場平均への勝敗 | 4社とも長期(21年)では市場平均に勝てていない(正相関でも罠) |
| データの射程 | 2018/4〜2026/2・n=55〜63・欠損期間あり・参考値 |
| 最大の発見 | 同じ「ビール大手」でも相関の向きが180度異なった |
ビール株を「業種でひとまとめ」にすると、実際の連動方向が真逆の銘柄を同列に扱うことになる。相関の向きと強さを実測して初めて、銘柄の個性が見えてくる。正相関でも市場平均には勝てていなかった——これが過去事実の答えです。
用語は用語ミニ辞書へ。「連動」=過去に方向が揃いやすかったという意味で、将来を保証しません。
① 相関の向きが真逆——4社の実測値
国税庁「酒税課税状況表(速報)」のビール課税移出数量(前年同月比)と各銘柄の月次株価(前年同月比)の相関を計算しました。ラグ0〜6ヶ月を走査し、|r|が最大のラグを採用しています。
| 銘柄 | 全期間(n=62〜63) | コロナ除外(n=55〜56) | 最良ラグ | 方向 |
|---|---|---|---|---|
| アサヒGHD 2502 | +0.53 | +0.41 | 5ヶ月後 | 正(出荷増→株高方向) |
| サッポロHD 2501 | +0.46 | +0.41 | 3ヶ月後 | 正(出荷増→株高方向) |
| 宝HD 2531 | −0.37 | −0.46 | 6ヶ月後 | 負(出荷増→株安方向) |
| キリンHD 2503 | −0.35 | −0.49 | 4ヶ月後 | 負(出荷増→株安方向) |
アサヒとサッポロは出荷増の方向に株価が動きやすく、キリンと宝は逆方向。同じ「ビール大手4社」でも相関の符号が真逆に分かれました。
データ出典・射程・限界は後述(§⑤)を参照。n=55〜63は中期測定であり、全期間のrは参考値として扱ってください。
② なぜ方向が逆になるのか——考えられる背景
同業なのに相関の向きが違う——その背景として事業構成から考えられる要因を整理します。ただし以下は推測の域を出ない解釈であり、確定的な因果関係ではありません。
正相関(アサヒ・サッポロ)の考えられる要因
- アサヒGHDは国内ビール事業が連結売上の中心的な柱の一つで、ビール市場の動向が業績に比較的直結しやすい
- サッポロHDも国内ビール・飲料が主力で、ビール出荷量の改善が収益予想に反映されやすい構造
- どちらも「ビール会社」としてのポジショニングが株価に織り込まれているため、ビール出荷の増減がシグナルとして機能しやすかったと考えられる
負相関(キリン・宝)の考えられる要因
- キリンHD:連結売上に占める医薬事業(協和キリン)・海外ビール事業(ライオン・ブラジルビール等)・飲料の比率が高く、国内ビール出荷量が株価の主要ドライバーになりにくい。ビール出荷が増えるような国内消費拡大局面でも、海外・医薬の動向が株価を左右するため、同方向に動かないケースがあり得る
- 宝HD:焼酎・みりん・本みりん・調味料・バイオ製品など、ビール以外の事業が売上の主体。宝HDの正式なビール事業は相対的に小さく、国内ビール出荷量の変動が宝HD全体の業績に与える影響は限定的と考えられる。ビールが増える消費環境がむしろ焼酎や清酒の競合激化を意味する局面があり得る点も背景として挙げられる
共通する構造:「ビール大手」というラベルで括られていても、売上の中身がビールだけでない企業は、ビール出荷量と株価の連動が薄れる。これは工作機械受注×DMG森精機と同じ構図(業種ラベルへの過信が外れる例)です。
③ 正相関でも「市場平均には勝てなかった」——二重の罠
出荷量と正相関があったアサヒ・サッポロでも、年次保有(2005〜2025年)の成績を見ると、市場平均(検証対象199社等金額平均)を下回る年が多い結果でした。
| 銘柄 | 酒税との相関 | 市場平均に 勝った年 | 市場との差 (年・平均) | いちばん下げた年 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| アサヒGHD 2502 | +0.53 | 9/21 | −4.6% | 2008年 ▲24% | 相関あり・市場超過なし(罠ゾーン) |
| サッポロHD 2501 | +0.46 | 6/21 | −2.8% | 2008年 ▲49% | 相関あり・市場超過なし(罠ゾーン) |
| キリンHD 2503 | −0.35 | 6/21 | −6.3% | 2008年 ▲32% | 負相関・市場超過なし(説明しにくい) |
| 宝HD 2531 | −0.37 | —※ | —※ | —※ | 負相関(199社パネル外・年次未算出) |
※宝HD(2531)は当サイトの199社パネルに含まれていないため、年次保有検証(市場超過・勝った年数)のデータは現時点で未算出です。
正相関(アサヒ・サッポロ)であっても、市場平均に勝てた年数は少なく、平均超過はマイナスでした。「ビール出荷と株価の方向が揃う」ことと「市場平均を上回る」ことは別物です。正相関を見て「出荷増局面でビール株を買えば勝てる」と考えると外れた、というのが過去の記録です。
年次保有成績(市場超過・最悪年)は juchu-fa と同じ検証方法(毎年1月等金額買い・1年保有・配当・手数料・税金含まず・市場平均=199社等金額)。ただし年次保有の指標は「代表指標(各銘柄のrが最大の統計)」で計算しており、酒税ビール出荷量との組み合わせではありません。
④ 4象限で見る(相関 × 市場超過)
| 市場平均を上回った(平均超過プラス) | 市場平均を上回らなかった(平均超過ゼロ以下) | |
|---|---|---|
| 正相関あり | ——(該当なし) | 罠ゾーン:アサヒGHD・サッポロHD |
| 負相関 | ——(該当なし) | 説明しにくい:キリンHD(宝HDは年次未算出) |
今回の検証では「相関も市場超過もあり」の本命はゼロでした。ビール出荷量は、ビール株の「仕分けフィルター」として方向の差異を示してはいますが、過去21年の市場超過を生み出す指標としては機能しなかった結果です。
本命ゼロは「何もわからなかった」という意味ではありません。「同業でも方向が逆になる」という発見自体が辞書の価値です。業種ラベルで銘柄を束ねる前に、統計との実測相関を確認することの重要性が、この結果から読み取れます。
「罠ゾーン」は売り候補ではありません。相関だけで銘柄を選ぶと過去に市場平均を下回ることがあった、という注意ゾーンを指します(避ける・保有を点検する材料であって、空売りを勧めるものではありません)。
⑤ データの限界と射程——正直に
この検証には以下の制約があります。記事の解釈にあたって必ず念頭に置いてください。
- データ欠損期間:国税庁の酒税課税状況表速報は、2020年8月〜2022年3月(約20ヶ月)のデータが国税庁サイト上で公開されていないため、この期間は欠損として除外しています(欠損の原因は不明)
- 中期測定・小サンプル:有効サンプル n=55〜63(全期間)・n=55〜56(コロナ除外)。統計的に有意な判断には注意が必要で、参考値として扱うのが適切です
- 2026年3月の異常値除外:令和7年3月のビール課税数量が前年比約270%と異常値を示しており(酒税区分の一本化による計上方法の変更と推定)、この月を除外しています
- YoY×YoY方式の限界:前年同月比どうしの相関のため、絶対水準の変化(ビール市場全体の長期縮小トレンド)は捨象されています
- 期間の短さ:2018年以降のデータのみ。さらに長期のデータがあれば相関の向きが変わる可能性があります
⑥ 相関が出た局面と注意点
- 最良ラグが3〜6ヶ月後:すべての銘柄で株価の反応がビール出荷の数ヶ月後になっています。統計の発表ラグ(翌々月公表)を考えると、情報としては使えるタイミングがずれる可能性があります
- コロナ除外でキリン・宝の負相関が強まる:コロナ期の特殊な動きを除外すると、負相関がより明確になる(キリン: −0.35→−0.49、宝: −0.37→−0.46)。COVID特殊要因がなくても負方向は維持されていた
- ビール市場の長期縮小:国内ビール出荷量は長期的に減少傾向にあり、この統計自体が「成長産業の先行指標」ではなく「縮退局面の管理指標」として機能しています
⑦ 今の環境を見るなら、どこを見るか
過去の連動パターンを確認する視点として(「今買える」という話ではありません)。
| チェック項目 | 見るポイント | 過去パターンとの関係 |
|---|---|---|
| ビール出荷の方向 | 前年比が改善か悪化か | アサヒ・サッポロは正方向、キリン・宝は逆方向の傾向 |
| 各社の非ビール事業比率 | 医薬・海外・飲料等の売上比率 | ビール以外が多いほど出荷量連動が薄れる傾向 |
| 市場平均との比較 | 過去21年の超過実績 | 正相関があっても市場超過はなかった点に注意 |
まとめ:この統計の使い方
酒税ビール課税移出数量は、ビール株の「銘柄を一括りにしない」フィルターとして機能しました。出荷量と株価の相関の向きが同業4社内で180度異なり、業種ラベルではなく実測の相関で見なければ、銘柄の個性が見えないことを示す過去事実です。ただしいずれの銘柄も市場平均を長期で上回ってはいなかった——この結果は、「出荷量が先行指標になる」という発想自体の限界も示しています。
基準日:2026年6月29日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:ビール課税移出数量=国税庁「酒税課税状況表(速報)」月次。データ収集期間2018年4月〜2026年2月(ただし2020年8月〜2022年3月の約20ヶ月は公開なし・欠損除外。2026年3月異常値も除外)。有効サンプル全期間n=61〜63・コロナ除外n=55〜56。前年同月比変換後の相関(lag 0〜6ヶ月走査・|r|最大を採用)。株価=Yahoo Finance(月次・調整後終値・前年同月比)。年次保有成績(市場超過・最悪年)=毎年1月等金額買い・1年保有・配当・手数料・税金含まず・市場平均=検証対象199社等金額平均(TOPIX・日経平均ではありません)。宝HD(2531)は199社パネル外のため年次保有検証未算出。基準日2026-06-29。