景気感応度検証2026-06-26 公開
「ディフェンシブ株は景気に鈍感」は本当か——鉱工業生産×14銘柄で感応度を実測
「食品・医薬・たばこは景気が悪くても底堅い(ディフェンシブ)。鉄鋼・機械・商社は景気で大きく動く(シクリカル)」——投資の教科書に必ず出てくる分類です。では実際、景気そのもの(鉱工業生産指数)への感応度は、ラベルどおりに違うのか。両グループ14銘柄を25年分で実測しました。
検証方法
- 景気の代理:鉱工業生産指数(IIP・経済産業省)を前年同月比(YoY)に変換。景気の山と谷を最もよく映す代表的な月次指標です。
- 各銘柄:株価(月次・調整後終値)を前年同月比に変換。
- ラグ0〜6ヶ月で走査し、最も相関が強いラグを採用。全期間(〜2026年・n≈304)とコロナ除外(2020〜2021年を除く)を併記。
- 「景気に敏感」とは、ここでは鉱工業生産との連動 r が高いこと、と定義します。
ディフェンシブ群:鉱工業生産との連動
| 銘柄 | 全期間 r(ラグ) | コロナ除外 |
|---|---|---|
| アサヒGHD(2502) | +0.43(lag0) | +0.38 |
| JT(2914) | +0.37(lag0) | +0.35 |
| キリンHD(2503) | +0.35(lag0) | +0.36 |
| 武田薬品(4502) | +0.28(lag0) | +0.32 |
| 花王(4452) | +0.24(lag0) | +0.30 |
| アステラス製薬(4503) | +0.18(lag0) | +0.22 |
| 東京ガス(9531) | +0.18(lag3) | +0.18 |
グループ平均は |r|≈0.29。医薬(アステラス・花王)やガスは確かに鈍感ですが、アサヒ(+0.43)やJT(+0.37)は「ディフェンシブ」のわりに景気とよく連動しています。ビールの売れ行きが景気・気温・消費マインドに揺れるためで、ラベルほど一枚岩ではありません。
シクリカル群:鉱工業生産との連動
| 銘柄 | 全期間 r(ラグ) | コロナ除外 |
|---|---|---|
| オークマ(6103) | +0.43(lag0) | +0.43 |
| コマツ(6301) | +0.41(lag0) | +0.40 |
| 日本製鉄(5401) | +0.41(lag0) | +0.33 |
| 三菱商事(8058) | +0.38(lag0) | +0.35 |
| ダイキン工業(6367) | +0.34(lag0) | +0.38 |
| 住友金属鉱山(5713) | +0.28(lag0) | +0.26 |
| トヨタ自動車(7203) | +0.24(lag0) | +0.22 |
グループ平均は |r|≈0.35。工作機械・建機(オークマ・コマツ)は教科書どおり高めですが、トヨタ(+0.24)はディフェンシブ並みに鈍感。自動車は国内の鉱工業生産より為替(ドル円)や海外需要で動くためで、「シクリカル=景気敏感」のラベルが当てはまりません。
結果:通説は「平均では正しいが、ラベルは当てにならない」
| グループ | 平均 |r| | レンジ |
|---|---|---|
| ディフェンシブ7銘柄 | 0.29 | 0.18〜0.43 |
| シクリカル7銘柄 | 0.35 | 0.24〜0.43 |
平均で見ればシクリカル(0.35)がディフェンシブ(0.29)を上回り、通説の方向は正しい。ただし差はわずか0.06で、しかもレンジが大きく重なっています。
- 逆転だらけ:ディフェンシブのアサヒ(0.43)はシクリカルのオークマ(0.43)と同じ。シクリカルのトヨタ(0.24)はディフェンシブの花王・JTより鈍感。
- そもそも全14銘柄が「弱い連動」:最大でも0.43、全銘柄がlag0(同月一致)。鉱工業生産は株を先行せず、単独で株価を強く動かす力もありませんでした。日本株は国内の景気指標より、為替・海外株・個社要因で動く部分が大きいためです。
結論
「ディフェンシブは景気に鈍感、シクリカルは敏感」という分類は、平均ではうっすら正しいが、個別銘柄を当てる道具にはなりません。アサヒは景気に敏感だし、トヨタは鉱工業生産には鈍感(その代わり為替に敏感)。ラベルでなく、その銘柄が実際に何と動いているかを実測すること——それが連動辞書のいちばんの使い道です。
で、この連動はどう使えばよかった?
「これだけ鉱工業生産指数と連動しているなら、買えば得をしたのでは?」と思いたくなります。代表として日本製鉄を毎年1月に買って1年保有すると、全199社を等金額で持つ「市場平均」に勝てたのは 8/21年でした(2005〜2025年)。

強い連動は「鉱工業生産指数と一緒に動く」ことの証明であって、「買えば勝てる」の証明ではありません。実際、全199社でも市場平均に勝てたのは平均42%=コイン投げ(50%)以下でした。
では、この連動は何に使えばよかったのか。データが支持する正しい使い方は3つです。 ①今の環境を読む=鉱工業生産指数と同月で動くなら、日本製鉄の値動きの“なぜ”がその指標で腑に落ちる(予測ではなく一致指標)。 ②分散の点検=同じ鉱工業生産指数に連動する株ばかり持つと「同じ波」で一緒に上下する=分散になっていないかを点検できる。 ③波及先の地図=鉱工業生産指数が大きく動いた局面で、どの株が一緒に動きやすいかの当たりをつける。 仕組みは3つの検証、他の指標はシミュレーターで確かめられます。
基準日:2026年6月26日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:鉱工業生産指数:経済産業省(e-Stat ダッシュボードAPI・月次・2020年基準のリンク系列)をYoY化。株価:月次・調整後終値(199銘柄キャッシュ)をYoY化。相関はYoY×YoY・ラグ0〜6ヶ月走査・全期間/コロナ除外併記(当サイト標準)。基準日2026-06-26。