統計検証2026-06-12 公開
航空旅客数とANA・JAL株——空港の混雑は株価に効くか
ニュースで「空港は出国ラッシュでごった返しています」と聞くと、ANAやJALの株も上がりそうな気がします。では実際に国内線の旅客数が増えた月に、航空・空港・旅行の株は上がっているのでしょうか。国土交通省「航空輸送統計調査」の国内定期航空 旅客数のYoYと、関連4社の株価を18年分(2007-2024)でラグ走査し、空港の混雑が株価に効くのかを正直に確かめました。
検証方法
- 国土交通省「航空輸送統計調査」の国内定期航空・旅客数(幹線+ローカル線の計・全国・月次/e-Stat統計表 0003173901)のYoY%と、4社の株価YoY%の相関
- 期間は2007年1月〜2024年3月(統計系列開始からのYoY、n=201)。コロナ期(2020-2021)を除いた窓(ex_covid・n=177)でも併せて確認
- ラグ0〜6ヶ月を走査し、|r|が最大になるラグを採用。「旅客数が株に何ヶ月先行するか」をここで見る
銘柄の選び方:航空旅客の動きが最も直接効きそうな先として、(1)エアライン2社=ANAホールディングス9202・JAL(日本航空)9201、(2)空港商業=羽田空港の旅客ターミナルを運営する日本空港ビルデング9706、(3)旅行流通=H.I.S.(エイチ・アイ・エス)9603、の計4社を事前に選定しました。旅客数の受益が「運ぶ・通す・売る」のどの層まで届くかを見る狙いです。
結果:空港が混んでも、株はついてこなかった
| 銘柄 | 相関 r | 最強ラグ |
|---|---|---|
| ANA HD 9202 | +0.25 | 5ヶ月 |
| H.I.S. 9603 | +0.18 | 2ヶ月 |
| 日本空港ビルデング 9706 | +0.07 | 2ヶ月 |
| JAL 9201 | +0.03 | 6ヶ月 |

当サイトの目安(|r|≧0.4)を超えた銘柄は1社もありませんでした。最大でもANAの+0.25で、空港商業の日本空港ビルデング(+0.07)や旅行のH.I.S.(+0.18)はさらに弱く、旅客数の増減と株価はほとんど同じ動きをしていません。
「コロナの暴落と回復」が見せかけの相関を作っていないか
航空はコロナで旅客が壊滅し、その後V字回復した統計です。こういう統計は、暴落と回復という大きな上下動だけで相関が水増しされることがあるため、コロナ期(2020-2021)を外した窓でも別途確認しました。結果はほぼ同じで、ANAは全期間+0.25/コロナ除外+0.24、日本空港ビルデングは+0.07/+0.08とほとんど動きません。むしろH.I.S.はコロナ除外だと-0.09へ符号が反転します。つまりこの弱い連動はコロナの暴落・回復に引っ張られた数字ではなく、平時でも旅客数で株は動いていない、ということです。
なおJAL(9201)は2010年の経営破綻で上場廃止、2012年に再上場しています。データ提供元の株価系列は破綻前後をまたいでおり、JALのrは現在の再上場後の会社だけを純粋に測ったものではない点に留意してください(参考値)。いずれにせよ+0.03とほぼ無相関で、結論を左右しません。
なぜ効かないのか:旅客数は「数」、株価は「単価と海外」
理由は延べ宿泊者数や鉄道旅客と同じ筋です。航空旅客「数」は搭乗者の頭数であって、エアラインの利益を決める運賃単価・燃料費・国際線・貨物を映しません。ANAやJALの収益は国内線の混雑よりも、国際線需要・原油価格・為替で大きく振れます。空港ビルも賃料・免税売上・不動産価値が効き、H.I.S.は海外旅行とハウステンボス等の個社事業で動きます。「混んでいる=儲かっている=株高」は直感的ですが、過去18年のデータには表れませんでした。
タイミングの面でも先行性は見当たりません。最も相関が出たANAでもラグは5ヶ月とばらつき、安定して「旅客数が株を予言する」関係ではありませんでした。航空旅客数の発表は対象月の翌々月末頃で、数字が出るころには相場はとうに動いています。
結論:空港の混雑は、株の買い材料にはならなかった
「空港が混めば航空株」という連想は、18年・201ヶ月のデータでは確認できませんでした(最大ANA+0.25・基準未達)。これは鉄道の乗客数が鉄道株とむしろ逆相関気味だった前例とも整合します——人の移動「量」は、運輸・観光株を動かす主因ではない、というのが当サイトの繰り返し得ている結果です。空港の人混みは景気の体感としては鮮やかでも、それを根拠に関連株を売買しても過去データでは優位は出ませんでした。航空・旅行株を見るなら、旅客数より運賃単価・国際線・燃料・為替のほうが筋がよさそうです。
基準日:2026年6月12日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:国内航空旅客数は国土交通省「航空輸送統計調査」(国内定期航空・旅客数・幹線+ローカル線の計・全国・月次/e-Stat 統計表ID 0003173901)、株価はYahoo Finance(調整後終値)。窓・ラグ別相関は当サイト算出