統計検証2026-06-12 公開

残業時間と株価——所定外労働時間は景気の先行指標か

「現場が忙しくなって残業が増えれば、いずれ業績や株価にも効くはず」——残業はもっとも身近な好不況の体感です。厚生労働省の毎月勤労統計が公表する所定外労働時間(=残業時間)のYoYと、製造・物流の現場繁忙や人材需要を映す9社の株価を14年分で照らし合わせ、残業が株に先行するのかをラグ走査で正直に確かめました。

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検証方法

銘柄の選び方:残業の増減は製造・物流の現場繁忙と人材需要の代理指標と考え、(1)景気敏感6社=コマツ6301・ファナック6954・オークマ6103・日本製鉄5401・日本郵船9101・三菱商事8058、(2)人材2社=リクルートHD6098・パーソルHD2181、(3)物流1社=ヤマトHD9064、の計9社を事前に選定しました。

結果:景気敏感株とは連動。ただし「同月」だった

銘柄相関 r最強ラグ
日本製鉄 5401+0.59同月
日本郵船 9101+0.471ヶ月
パーソルHD 2181+0.43同月
ヤマトHD 9064-0.314ヶ月
オークマ 6103+0.30同月
三菱商事 8058+0.30同月
コマツ 6301+0.23同月
ファナック 6954-0.226ヶ月
リクルートHD 6098+0.17同月
残業時間と各銘柄の株価YoYの相関(14年)。日本製鉄・日本郵船・パーソルが連動(r≧0.4)。ただし最強ラグは同月=先行ではなく一致指標。
残業時間と各銘柄の株価YoYの相関(14年)。日本製鉄・日本郵船・パーソルが連動(r≧0.4)。ただし最強ラグは同月=先行ではなく一致指標。

連動が確認できたのは日本製鉄(+0.59)・日本郵船(+0.47)・パーソルHD(+0.43)の3社で、いずれも当サイトの目安(|r|≧0.4)を超えました。残業が増える局面は、鉄鋼・海運という景気の最前線と、人材派遣の需要が膨らむ局面とよく重なっています。

「先行指標か」への答え:いいえ、ほぼ同月でした

この記事の本題はタイミングです。連動した3社のうち、もっとも相関が強くなるラグは日本製鉄=同月、パーソル=同月、日本郵船=1ヶ月。つまり残業時間は株価を数ヶ月先んじて予言するわけではなく、ほぼ同時に動いていました。所定外労働時間の発表は対象月の翌々月上旬なので、数字が出たころには株価はすでに動き終わっている公算が高い、ということになります。

残りの銘柄では、ヤマトHD(-0.31・4ヶ月)やファナック(-0.22・6ヶ月)のように符号が割れたり弱かったりで、安定した先行性は見当たりませんでした。コマツ・リクルートも弱い連動にとどまります。

結論:残業は「景気の温度計」だが「先回りの道具」ではない

残業が増えれば景気敏感株が強い、という体感そのものはデータと整合しました(鉄鋼・海運・人材で|r|≧0.4)。ただしそれは同じ月に一緒に動く一致指標であって、統計発表を待ってから売買しても先回りにはなりません。残業時間は景気の体温計として現状確認に使うのが筋で、先行シグナルを期待する統計ではない——というのがこの14年の記録でした。なお製造業の好不況の代理としては鉱工業生産機械受注も併読すると立体的に見えます。

基準日:2026年6月12日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。

出典:所定外労働時間はe-Statダッシュボード(厚生労働省 毎月勤労統計調査・事業所規模5人以上・全国・月次)、株価はYahoo Finance(調整後終値)。窓・ラグ別相関は当サイト算出

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