アノマリー検証2026-07-22 公開

「株が下がると金は上がる(金は避難先)」は本当か——過去25年の日経下落月98ヶ月を、ドル建てと円建ての両方で実測した

相場が崩れると「金(ゴールド)に逃げろ」とよく言われます。株が下がるほど金が買われ、資産の避難先になる——という通説です。日経225が下がった月に金は本当に投資家を守ったのか、過去約25年(金データが揃う2000年以降)の下落月98ヶ月・急落月48ヶ月で実測しました。答えは「ドル建てなら本当。ただし円で持つ日本の投資家には約半分しか届かない」。ドル建ての金は下落月に平均+1.40%(勝率65%)と確かにプラスでしたが、同じ月を円換算すると平均+0.70%(勝率55%)まで縮みます。差を生んだ主犯は、日経が下がる月に同時に進みやすい円高でした。

出典リンクつきでコピーします
📌 今日の持ち帰り
金が「株安の避難先」として過去に効いたのは、あくまでドル建ての話でした(下落月+1.40%)。同じ金を円に換算すると+0.70%と約半分に縮みます。理由は、日経が下がる月に円高(ドル円 平均-0.51%)が同時に起きて、ドル建ての値上がりを削るから。避難効果は「金そのもの」より「どの通貨で持つか」に大きく左右されました。(過去データの記録であり、売買を勧めるものではありません)
このページでわかること/わからないこと
わかることわからないこと
過去の下落月に金がドル建て・円建てでどう動いたか次の下げ相場で金がどう動くか
円換算で避難効果がどれだけ削られたか今どの資産を持つべきか
削った主因(円高)の大きさ個別の売買タイミング
合成した円建て系列が実測ETFと整合するか将来の損益

① ドル建てなら通説どおり——下落月に平均プラス、急落月でもプラス

まず金をドル建て(GC=F・オンス)で見ます。日経225が下がった月98ヶ月で、ドル建て金の月次リターンは平均+1.40%、プラスで終えた勝率は65.3%でした。日経が-3%を超えて急落した月48ヶ月に絞っても平均+1.55%(勝率64.6%)と、崩れる月ほどむしろ堅い。日経との同月相関も-0.015とほぼゼロで、「株と別の動きをする=分散が効く」という通説の核心は、ドル建てでは過去データに現れていました。

資産全下落月
平均リターン
勝率n急落月(-3%超)
平均リターン
勝率n
金(ドル建て)+1.40%65.3%98+1.55%64.6%48
円建て金(合成)+0.70%55.1%98+0.72%58.3%48
1540.T実測+0.69%56.8%74+1.41%66.7%36
ドル円(参考)-0.51%41.2%153-0.67%36.1%83

※nは各資産のデータが揃う期間の日経下落月数。金(ドル建て・合成円建て)は2000年以降でn=98、ドル円は1996年以降でn=153、1540.T(純金上場信託)は2010年以降でn=74。日経225自体の1985年以降の全下落月は221ヶ月ありますが、金側のデータ制約で重なるのは98ヶ月(急落月は48ヶ月)です。物差しとして、この98ヶ月の日経225自身は平均-4.06%、急落月48ヶ月では-7.02%下げていました。

つまり:ドル建ての金は、日経の下落月・急落月ともに平均プラスで、日経とほぼ無相関(-0.015)だった。ここまでは「金は避難先」の通説どおりです。問題は、この+1.40%が円で持つ人の手元にそのまま残るか、です。

② だが円で持つと約半分——+1.40%が+0.70%に縮む

日本の投資家が金を持つとき、値動きは「金(ドル建て)の変化」と「ドル円の変化」の両方を受けます。円建ての金=ドル建て金×ドル円、という関係です。そこで同じ下落月98ヶ月を円換算した系列で測り直すと、平均リターンは+0.70%(勝率55.1%)。ドル建ての+1.40%から、ちょうど半分ほど(残った割合 約50%)に縮みました。急落月でも+1.55%→+0.72%(勝率58.3%)と同じ縮み方です。

日経の下落月における平均リターン。ドル建て金はプラス、円換算では約半分、ドル円はマイナス
日経の全下落月における各資産の平均リターン。ドル建て金+1.40%が円換算で+0.70%に縮み、ドル円は-0.51%(円高)。出典:Yahoo Finance(月次調整後終値)・当サイト算出。

つまり:避難効果は円換算でおよそ半減した。金そのものが弱かったのではなく、円に直す過程で目減りしています。「金は避難先」という通説は、円で資産を持つ日本の投資家の実感(避難したのに思ったほど増えない)とここでズレます。

③ 種明かし——削った主犯は「日経下落月に同時に進む円高」

縮んだ0.7%ポイントはどこへ消えたのか。答えはドル円の欄にあります。日経が下がった月153ヶ月で、ドル円は平均-0.51%(円高方向・勝率41.2%=上昇した月は4割どまり)。急落月83ヶ月ではさらに-0.67%(勝率36.1%)と円高が深まります。株が崩れる月は「リスク回避で円が買われる」局面と重なりやすく、その円高がドル建ての値上がりを削っていました。

内訳は算術で一貫します。同じ98ヶ月の上で、ドル建て金+1.40%のうち手元に残ったのが円建て+0.70%。差の約0.70%ポイントが、これらの月に同時に進んだ円高で削られたぶんです(急落月では差 約0.83%ポイント)。参考に測ったドル円の平均-0.51%も同じ円高方向で、符号が一致します(ドル円はより長い153ヶ月ぶんの平均のため、削り幅の数字とは一致しません)。なお、この分解はリターン(%)水準での引き算=一次近似です。円建て金はドル建て金とドル円の積で決まるため、厳密には両者の掛け合わせで生じる微小な交差項ぶんの差を含みます。

④ 同月相関の対比——円換算で「株と同じ向き」に寄る

もうひとつ、避難先らしさを測る指標が「日経との同月相関」です。マイナスなら株と逆向き(避難的)、プラスなら株と同じ向き(避難になりにくい)ことを意味します。

資産日経との同月相関
全期間
n同・コロナ期除外n
金(ドル建て)-0.015222-0.013205
円建て金(合成)+0.199222+0.205205
1540.T実測+0.050192+0.085168
ドル円(参考)+0.264357+0.269333
日経225との同月リターン相関。ドル建て金はほぼ無相関、円建ては弱い順行、ドル円は最も順行
日経225との同月リターン相関(全期間)。ドル建て金-0.015(ほぼ無相関)が、円建てでは+0.199(弱い順行)へ。ドル円は+0.264。出典:Yahoo Finance・当サイト算出。

つまり:ドル建て金は日経とほぼ無相関(-0.015)で理想的な分散先だったのに、円換算すると+0.199と弱いながら株と同じ向きへ寄りました。ドル円自体が日経と+0.264の順行(下落月に円高)なので、その成分が円建て金に混ざるためです。なお1540.T(実測ETF)の相関が+0.050と低めなのは、この系列だけ2010年以降の短い窓で測っているためで、期間差を割り引いて見る値です。

⑤ 実測クロスチェック——1540.T(純金上場信託)で合成の妥当性を確認

ここまでの円建ての数字は「GC=F×ドル円」で合成した系列です。これが現実の円建て金と合っているかを、実在する円建て金ETF・1540.T(純金上場信託・2010年〜)で突き合わせました。1540.Tの全下落月の平均リターンは+0.69%(勝率56.8%・n=74)で、合成の+0.70%とほぼ一致します。

合成系列と1540.T実測をオーバーラップ期間(2010年〜・n=136)で照合すると、月次リターンの相関は0.891、平均リターン差は-0.028%ポイントとごく小さく、合成が実測の代理として妥当な水準でした。

ひとつ正直に書いておくべき食い違いがあります。急落月だけは1540.Tが+1.41%(n=36)と、合成の+0.72%より高く出ます。ただしこれは急落月がわずか36ヶ月しかなく、しかも1540.Tのデータが2010年以降に偏っている(=金が比較的堅調だった局面に集中している)ためで、少ない標本の振れとして扱うべき値です。全下落月(n=74)では合成とほぼ一致していることの方を、代表的な結果と見るのが妥当です。

この検証の限界と、数字の性質(自己点検)

結論を大きく見せないために、弱いところを先に開示します。

① 円建て金(合成)は「換算値」であって推定ではない。円建て金=GC=F(USD/oz)×ドル円(JPY/USD)=JPY/oz という単位換算(算術変換)で作っており、補間や予測は含みません。一方、現実の円建て金ETF(1540.T)とは、先物とETFという商品の違い(保管コスト・限月のロール・為替ヘッジの有無など)から月ごとにズレます。合成と1540.Tの平均絶対差は1.35%ポイントあり、月単位では一致しません。あくまで「長期の平均的な傾向を測る代理」として使っています。

② 「勝率55%」は、五分をわずかに超える程度でしかない。円建て金が下落月にプラスで終えた割合は55.1%で、半分より少し多い、という水準です。「下げ相場のたびに必ず効く保険」ではありません——下落月の4割強では円建て金もマイナスで終えています。平均が押し上げられているのは、効いた月の上げ幅が効かなかった月の下げ幅よりやや大きかったからで、毎回の安心を保証する数字ではないことを言い切っておきます。

③ 対象は過去約25年に限られる。金の月次データが揃うのは2000年以降で、日経225の全下落月221ヶ月のうち金と重なるのは98ヶ月(急落月は48ヶ月)です。1980〜90年代の下げ局面は対象外で、将来を保証するものでもありません。

同じ検証を再現する3ステップ

この記事の数字は、次の手順で誰でも同じように再現できます。特別なモデルは使っていません。

  1. 月次リターンに直す:日経225・金(GC=F)・ドル円(JPY=X)・1540.Tの月次調整後終値を前月比(%)にする。
  2. 円建て金を換算で作る:金(ドル建て)×ドル円=円建て金。これは単位換算であって推定ではない。1540.T実測と相関・平均差で整合を確かめる。
  3. 下落月だけを2層で見る:日経がマイナスの月を「全下落月」、-3%超を「急落月」に分け、ドル建て金・円建て金・ドル円それぞれの平均リターン・勝率・同月相関を並べる。ドル建てと円建てを必ず分けることが肝で、混ぜると「円高で削られた分」が見えなくなる。

そしてこの「円高の壁」は金に限りません。米国株でも外貨建て資産でも、株安と同時に円高が来れば、円換算のリターンは同じように削られます(本記事の測定対象は金のみで、他資産の数値は測っていません)。避難先を選ぶときは「その資産が上がるか」だけでなく「円でいくら残るか」まで見る必要がある、というのがこの98ヶ月の教訓です。

まとめ

「株が下がると金は上がる(金は避難先)」は、ドル建てでは過去データに現れた通説でした——下落月+1.40%・急落月+1.55%・日経とほぼ無相関(-0.015)。しかし円で持つ日本の投資家には約半分しか届きません。同じ月を円換算すると+0.70%(勝率55.1%)まで縮み、削ったのは日経下落月に同時に進む円高(ドル円 平均-0.51%)でした。同月相関もドル建て-0.015が円建てでは+0.199と、株と同じ向きへわずかに寄ります。実測の1540.Tは全下落月で合成とほぼ一致(+0.69%)し、合成の妥当性も確認できました。「金が避難先か」より「どの通貨で持つか」——それがこの過去25年ぶんの下落月が示した、いちばん実務的な線引きです。

基準日:2026年7月22日。本記事は過去データの記録であり、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。限界:金の対象期間はおおむね2000年以降で、1990年代前半以前の下げ局面は含みません。円建て金(合成)は「金(ドル建て)×ドル円」の単位換算値であり、現実の円建て金ETF(1540.T)とは商品差(保管コスト・限月・為替ヘッジ有無)から月ごとにズレます(合成と実測の平均絶対差1.35%ポイント)。サンプルは日経225の下落月 金重なりn=98/急落月n=48、ドル円n=153/n=83、1540.T実測n=74/n=36。数字の読み方もあわせてご覧ください。

出典:株価・為替データはYahoo Finance(^N225・GC=F・JPY=X・1540.T/調整後終値・月次)。円建て金(合成)=GC=F×JPY=X の算術換算。下落月の抽出・平均リターン・勝率・同月相関・合成整合チェックは当サイト算出。スクリプト:scripts/poc_gold_hedge_downside.py。

← アノマリー一覧に戻るトップへ