アノマリー検証2026-07-22 公開
「ディフェンシブ株は下げ相場に強い」は本当か——下落月137ヶ月・急落月73ヶ月で8銘柄を実測した
食品・医薬・通信・電力ガス——業績が景気に左右されにくい「ディフェンシブ株」は、相場が崩れても安心だとよく言われます。日経225が下がった月に、食品や通信の株は本当に投資家を守ってくれたのか。ディフェンシブ8銘柄と、対照として景気敏感なシクリカル2銘柄(トヨタ・日本製鉄)の月次リターンを137ヶ月の下落月・そのうち73ヶ月の急落月で実測しました。答えは「本当。ただし思っているのとは違う形で」。日経より下げにくいのは全銘柄で事実でしたが、下落月にプラスで終えた勝率はほぼ全銘柄が5割未満——「下げにくい」だけで、「下げ相場でも上がる」わけではありませんでした。
ディフェンシブ株は「下げ相場でも上がる」のではなく「日経より下げが小さい」だけでした。急落月(日経-3%超)でも日経の平均約-7.1%に対しディフェンシブは-3.6%〜ほぼ0%と、下げ幅は確かに小さい。ただし絶対リターンはプラスではなく、勝率も5割未満。「守り」と「上がる」は別物です。(過去データの記録であり、売買を勧めるものではありません)
| わかること | わからないこと |
|---|---|
| 過去の下落月にどの株が日経より下げにくかったか | 次の下げ相場でどの株が下げにくいか |
| ディフェンシブとシクリカルの下げ幅の差 | 今どの株を持つべきか |
| 「下げにくい」と「上がる」がどう違うか | 個別の売買タイミング |
| コロナ急落を除いても結果が変わらないか | 将来の損益 |
① 全下落月——日経より下げにくいのは全銘柄で本当だった
まず日経225が下がった月(137ヶ月)全体を見ます。この137ヶ月、日経225自身の平均は約-4.4%でした。各銘柄の「対日経差」は、その月の(銘柄の月次リターン − 日経の月次リターン)を平均した値です。プラスなら日経より下げが小さい(または上げが大きい)ことを意味します。
| 区分 | 銘柄 | β | 下落月の 平均リターン | 勝率 | 対日経差 (%ポイント) |
|---|---|---|---|---|---|
| ディフェンシブ | 味の素(2802) | 0.43 | -0.94% | 46.7% | +3.47 |
| ディフェンシブ | JT(2914) | 0.49 | -1.10% | 46.0% | +3.30 |
| ディフェンシブ | 花王(4452) | 0.30 | -1.05% | 42.3% | +3.35 |
| ディフェンシブ | 武田薬品(4502) | 0.41 | -1.77% | 40.1% | +2.63 |
| ディフェンシブ | アステラス製薬(4503) | 0.46 | -1.83% | 35.8% | +2.57 |
| シクリカル(対照) | 日本製鉄(5401) | 0.97 | -4.44% | 25.5% | -0.04 |
| シクリカル(対照) | トヨタ自動車(7203) | 0.82 | -3.52% | 26.8% | +0.87 |
| ディフェンシブ | NTT(9432) | 0.43 | -1.84% | 40.9% | +2.57 |
| ディフェンシブ | KDDI(9433) | 0.51 | -1.71% | 40.1% | +2.70 |
| ディフェンシブ | 東京ガス(9531) | 0.15 | +0.07% | 46.0% | +4.48 |
※nは各銘柄の株価データが揃う2000年以降の日経下落月数(トヨタのみデータ開始が1999年のためn=138)。日経225自体の1985年以降の下落月は221ヶ月ありますが、銘柄側のデータ制約で本検証の対象外です。
つまり:ディフェンシブ8銘柄はすべて対日経差がプラス(+2.57〜+4.48)で、下落月に日経より下げにくかった。対照のシクリカルは日本製鉄-0.04・トヨタ+0.87とほぼゼロ〜わずかで、下げ方は日経並みでした。
ここまでは通説どおりです。ところが「勝率」の列を見ると話が変わります。下落月にプラスで終えた割合は、いちばん高い味の素でも46.7%で、8銘柄すべてが5割を切っています。日経が下がった月、ディフェンシブ株もたいていは一緒に下がっていて、ただ「下げ幅が小さかった」というのが実態です。「ディフェンシブなら下げ相場でもプラス」という期待は、勝率の面では裏切られます。
フェアに書いておくべきことがひとつあります。βが1より小さい銘柄は、日経が下げた月の対日経差が近似的に「(β−1)×日経リターン」のぶんだけ機械的にプラス側へ寄ります。つまり「低βのディフェンシブが下落月に対日経差プラス」という結果それ自体は、半ば定義の帰結であって発見ではありません。この検証の情報量はむしろ、その先——銘柄ごとの水準差(花形の医薬が下位・最大は東京ガス)と、相対では守れても勝率は5割未満・絶対リターンはマイナスという事実の側にあります。
② 急落月ほど「下げにくさ」の差は開く——でも勝率はやはり5割未満
次に、日経が-3%を超えて急落した月だけ(73ヶ月)に絞ります。この73ヶ月の日経225の平均は約-7.1%。パニック的な下げの局面です。
| 区分 | 銘柄 | β | 下落月の 平均リターン | 勝率 | 対日経差 (%ポイント) |
|---|---|---|---|---|---|
| ディフェンシブ | 味の素(2802) | 0.43 | -2.67% | 37.0% | +4.45 |
| ディフェンシブ | JT(2914) | 0.49 | -2.02% | 43.8% | +5.11 |
| ディフェンシブ | 花王(4452) | 0.30 | -2.15% | 30.1% | +4.98 |
| ディフェンシブ | 武田薬品(4502) | 0.41 | -2.17% | 35.6% | +4.96 |
| ディフェンシブ | アステラス製薬(4503) | 0.46 | -2.72% | 31.5% | +4.40 |
| シクリカル(対照) | 日本製鉄(5401) | 0.97 | -7.49% | 9.6% | -0.37 |
| シクリカル(対照) | トヨタ自動車(7203) | 0.82 | -5.25% | 17.8% | +1.88 |
| ディフェンシブ | NTT(9432) | 0.43 | -2.98% | 30.1% | +4.14 |
| ディフェンシブ | KDDI(9433) | 0.51 | -3.60% | 23.3% | +3.52 |
| ディフェンシブ | 東京ガス(9531) | 0.15 | +0.09% | 42.5% | +7.21 |


つまり:急落月ほど対日経差は大きく開き(ディフェンシブ+3.52〜+7.21)、守りの効果ははっきり出た。だが勝率はさらに下がり、ディフェンシブでも23.3〜43.8%止まり。「大きく崩れる月ほど日経よりはマシ、でもプラスにはなりにくい」という関係でした。
③ 意外だった2点——花形の「医薬」は下位、最強はβ0.15の東京ガス
ディフェンシブ株の中身を見ると、通説の印象とはずれる点が2つありました。
ひとつ目。「ディフェンシブの代表格」とされる医薬(武田・アステラス)が、ディフェンシブ内ではむしろ下位でした。全下落月の対日経差は、アステラス製薬+2.57・武田薬品+2.63で、通信のNTT(+2.57)と並んで8銘柄の下位グループ。平均リターンで見ても医薬2社は-1.77%・-1.83%と、味の素(-0.94%)や花王(-1.05%)より下げていました。「医薬だから鉄壁」という感覚は、少なくともこの下落月の相対耐性では当たりませんでした。
ふたつ目。いちばん下げに強かったのは、β0.15の東京ガスでした。βは日経に対する感応度で、1より小さいほど市場の値動きに鈍いことを示します。東京ガスのβ0.15は8銘柄で最小。全下落月の平均リターンが+0.07%、急落月ですら+0.09%と、下げ相場でも平均はほぼ±ゼロ。対日経差も全下落月+4.48・急落月+7.21と最大でした。派手な食品・医薬より、規制業種で値動きの鈍い電力ガスがいちばん「動かなかった」わけです。
④ シクリカルとの分離ははっきりしていた
対照に置いた景気敏感株(シクリカル)と比べると、ディフェンシブの「下げにくさ」は明確です。とくに急落月の勝率で差が出ました。
| 急落月(日経-3%超・n=73) | 勝率 | 平均リターン | 対日経差 |
|---|---|---|---|
| ディフェンシブ8銘柄の幅 | 23.3〜43.8% | +0.09〜-3.60% | +3.52〜+7.21 |
| トヨタ自動車(7203・対照) | 17.8% | -5.25% | +1.88 |
| 日本製鉄(5401・対照) | 9.6% | -7.49% | -0.37 |
つまり:急落月の勝率は、シクリカルが日本製鉄9.6%・トヨタ17.8%と1〜2割どまりなのに対し、ディフェンシブは23.3〜43.8%。どちらも5割未満だが、「日経より下げにくい株」と「日経以上に下げる株」の線引きははっきりしていました。
⑤ コロナ急落を除いても、順番は変わらなかった
ここまでの結果が2020年のコロナ・ショック1回に引きずられていないかを確かめるため、コロナ期(2020〜2021年)を除いた窓でも同じ集計をしました(急落月 n=73→69)。
| 区分 | 銘柄 | 急落月 対日経差 全期間(n=73) | 同・コロナ期除外 (n=69) |
|---|---|---|---|
| ディフェンシブ | 味の素(2802) | +4.45 | +4.17 |
| ディフェンシブ | JT(2914) | +5.11 | +5.15 |
| ディフェンシブ | 花王(4452) | +4.98 | +5.03 |
| ディフェンシブ | 武田薬品(4502) | +4.96 | +5.22 |
| ディフェンシブ | アステラス製薬(4503) | +4.40 | +4.69 |
| シクリカル(対照) | 日本製鉄(5401) | -0.37 | +0.05 |
| シクリカル(対照) | トヨタ自動車(7203) | +1.88 | +1.77 |
| ディフェンシブ | NTT(9432) | +4.14 | +4.13 |
| ディフェンシブ | KDDI(9433) | +3.52 | +3.47 |
| ディフェンシブ | 東京ガス(9531) | +7.21 | +7.13 |
つまり:コロナ期を外しても符号(プラス/マイナス)と銘柄の順番はほぼ変わりません。東京ガスが最大(+7.13)、ディフェンシブは全てプラス、日本製鉄だけがゼロ近辺。「下げにくさ」はコロナ1回の産物ではなく、複数の下げ局面で繰り返し出ていた傾向でした。
「守り≠上がる」——いちばん誤読されやすいところ
この検証でいちばん取り違えやすいのは、「下げにくい」を「下げない/上がる」と読み替えてしまうことです。数字を素直に見ると、最悪の局面ではディフェンシブでも普通にマイナスでした。急落月の平均リターンは、味の素-2.67%・武田-2.17%・NTT-2.98%と多くが-2〜-3%、KDDIは-3.60%まで下げています(平均で±ゼロ近辺だったのは東京ガス+0.09%だけ)。日経が約-7.1%も落ちる月に「-2〜-3%の下げで済んだ」というのが、ディフェンシブの守りの正体です。損失を小さくする効果はあっても、下げ相場で資産をプラスに保つ道具ではありません。ここを混同すると、「ディフェンシブに逃げたのに含み損が増えた」という体感とデータの食い違いが生まれます。
同じ検証を再現する3ステップ
この記事の数字は、次の手順で誰でも同じように再現できます。特別なモデルは使っていません。
- 月次リターンに直す:日経225と各銘柄の月次調整後終値を前月比(%)にする。
- 下落月だけを抜き出す:日経がマイナスだった月を「全下落月」、-3%を超えた月を「急落月」として2層に分ける。
- 「相対」と「勝率」を分けて見る:各銘柄について〈対日経差(下げにくさ)〉と〈勝率(プラスで終えた割合)〉を別々に集計する。この2つを混ぜないことが肝で、混ぜると「下げにくい」を「上がる」と誤読してしまう。
「下げにくさ」と「上がりやすさ」を分けて測る——ただそれだけで、通説の「安心」がどこまで本当でどこから思い込みかが見えてきます。
まとめ
「ディフェンシブ株は下げ相場に強い」は、半分本当で半分は思い込みでした。本当なのは「日経より下げにくい」部分——下落月の対日経差はディフェンシブ8銘柄すべてプラス(+2.57〜+4.48、急落月は+3.52〜+7.21)で、シクリカルとの分離もはっきりしていました。思い込みだったのは「下げ相場でも上がる」部分——下落月にプラスで終えた勝率はほぼ全銘柄5割未満で、急落月には平均-2〜-3%下げていました。さらに、通説の花形である医薬がディフェンシブ内では下位で、いちばん動かなかったのはβ0.15の東京ガスでした。「守り」を「上がる」と読み替えないこと——それがこの137ヶ月ぶんの下落月が教えてくれた、いちばん実務的な線引きです。
基準日:2026年7月22日。本記事は過去データの記録であり、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。限界:対象期間はおおむね2000年以降で、1990年代前半のバブル崩壊局面は含みません。対象はセクターを代表させた個別10銘柄であってセクター指数ではなく、JT(たばこ)の高配当性や東京ガス(規制業種)の値動きの鈍さなど各銘柄の固有要因を含みます。トヨタ・日本製鉄は「景気敏感の対照」として置いた2銘柄で、シクリカル全体を代表するものではありません。サンプルは日経225の下落月 n=137/急落月(-3%超)n=73(コロナ期除外では n=127/n=69)。βは全月ベースの対日経単回帰の傾きです。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:株価データはYahoo Finance(各銘柄・調整後終値・月次)/日経225は ^N225。下落月の抽出・対日経差・勝率・βの集計は当サイト算出。スクリプト:scripts/poc_defensive_downside.py。