基礎知識2026-06-19 公開

ラグ(最良ラグ)とは何か——当サイトの「0〜6ヶ月ずれ」を正しく読む

当サイトの検証表には「ラグ 0」「ラグ 3」「ラグ 6」という数字が出てくる。これは「統計と株価のずれが何ヶ月のときに相関が最も高いか」を示すものだ。「ラグ 3 = 3ヶ月先行指標」と読めるか——そう単純ではない。このページではラグの定義・計算方法・正しい読み方・誤読パターンを整理する。

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1. ラグとは何か——定義

当サイトでいうラグ(lag)は、統計データを何ヶ月ずらしたときに株価との相関が最大になるかを示す値だ。

具体例で説明する。有効求人倍率と株価の相関を測るとき、

当サイトはラグ0〜6の7パターンを全て計算し、相関係数(r)が最大になるラグを「最良ラグ(best lag)」として採用し表に掲載している。

ラグは「統計が先、株価が後」という方向で定義している。ラグ3なら「3ヶ月前の統計と今月の株価」が最も強く相関したことを意味する。

2. ラグ0の意味:一致指標

検証結果を見ると、ラグ0(同月)が最良になる組み合わせが非常に多い。これは「統計と株価が同じ月に動く(一致指標)」であることを示す。

たとえばSOX(半導体指数)×東京エレクトロンはラグ0でr=+0.856と最強の連動を示す。SOXと東京エレクトロンは同月に動いている。SOXを見てから東京エレクトロンを動かそうとしても、その月は既に終わっている——つまりラグ0は「先行しない」ことを意味する。

なぜ多くの組み合わせでラグ0が最良になるのか。株式市場は情報の先取りが速い。業界統計の発表よりも先に、プロの投資家や企業の決算発表・受注プレス・業界ニュースから情報が株価に織り込まれる。月次統計が出るころには、市場はすでに動き終わっていることが多い。結果として「統計と株価がほぼ同時」というラグ0の一致関係が観測されやすくなる。

3. ラグが1以上のとき:本当に先行しているか

ラグ3の例を考える。「有効求人倍率のラグ2でr=+0.56」という結果があったとき、「求人倍率の発表から2ヶ月後に株価が動く」と読みたくなる。しかし注意が必要だ。

落とし穴1:発表日のずれ

月次統計の多くは翌月以降に発表される。たとえば「X月の有効求人倍率」は通常「X+1月末〜X+2月初」に発表される(厚生労働省の発表スケジュールによる)。「ラグ2」の場合、2ヶ月前の統計値が発表されるのは実際には0〜1ヶ月前の可能性がある。発表タイミングを正確に考慮しないと、先行に見えて実は発表後に株価が動いているだけというケースがある。

落とし穴2:多重検定(7パターンから選ぶバイアス)

ラグ0〜6の7パターンを計算して最大のものを選ぶ操作は、多重検定の問題を内包する。データがランダムでも7回試せば1回は偶然に高い相関が出やすい。これを多重検定と偽発見率の記事で詳しく解説しているが、ラグが大きいほどこのバイアスの影響を受けやすい。

当サイトでは、ラグ1以上の結果を「機械的な先行指標」として扱わず、「その方向のずれで最も高かった過去の記録」として位置づけている。

落とし穴3:nが小さくなる

ラグを大きくすると、使えるデータ数(n)が減る。ラグ6なら最初と最後の6ヶ月分が対応しなくなり、n=240の期間でもラグ6ではn=234になる。nが小さいほど相関係数はばらつきやすく、偶然の一致が検出されやすい。

4. ラグが大きいほど「先行指標として優れている」は誤り

よくある誤読をまとめる。

誤った読み方正しい読み方
ラグ6 = 6ヶ月先行する確実な指標6ヶ月ずらしたときに過去の相関が最大だった記録。将来も同じ関係が続く保証はない
ラグ0より大きいラグの方が使いやすいラグ0は同月一致で「先行しない」が意味明快。大きいラグは発表タイミング・多重検定・n縮小の複合問題がある
ラグが大きいほど相関が強い最良ラグを選ぶ操作自体がラグの大きい方向にバイアスをかけることがある
ラグ3なら3ヶ月前に統計を見てから動ける統計の発表日と対象月は異なる。「何月分の統計が何月に発表されるか」を発表カレンダーで確認する必要がある

5. 当サイトでの実例

以下に当サイトの検証から代表的なラグを示す。いずれも「過去の記録」であり、将来の先行指標であることを保証しない。

組み合わせ最良ラグr(最良ラグ時)解釈
SOX × 東京エレクトロン0+0.86同月一致。先行しない
有効求人倍率 × パーソルHD2+0.562ヶ月ずれで最大。発表タイミング要確認
店舗着工床面積 × 三井不動産6+0.516ヶ月ずれ。nが縮小・多重検定リスクあり
機械受注 × 日立製作所0+0.46同月一致。先行しない
訪日外客数 × 三越伊勢丹0+0.41同月一致。先行しない

出典:各検証記事の実測値。基準日:2026年6月19日。

6. では、ラグのある組み合わせはどう使うか

ラグ1以上の結果は「先行指標として確実に使える」とは言えない一方、まったく意味がないわけでもない。

たとえば「ラグ6で高い相関が過去に出ている」という記録は、「その統計と銘柄のあいだに、何らかの構造的な時間差関係が過去に存在した可能性がある」という仮説の入口として使える。その仮説を使いたいなら、当該統計の発表スケジュールを調べ、「いつ何の数字が出るか」と「それが実際に株価と時差連動しているか」を改めて自分で確認する必要がある。当サイトはその仮説のリストを提供するが、投資判断の確認作業は省略できない。

まとめ

本記事は当サイトの数字を正しく読むための方法論解説です。投資助言ではありません。統計の発表スケジュールは発表カレンダーをご確認ください。

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