銘柄深掘り2026-06-13 公開
日本製鉄×残業時間の0.59は本物か——『現役最強』ペアを5年刻みで分解する
所定外労働時間(残業)と景気敏感株の検証で、当サイトの統計辞書のなかでも現役で最も頑健に見えたのが日本製鉄(5401)×残業時間で、全期間r=+0.59(n=160)でした。残業が増える=工場がフル稼働=鉄が売れている、という素直な連想に合う数字です。でも、この0.59はいつの相関なのか。機械受注×オークマの『最強ペアの寿命』と同じく、14年分を5年刻みの窓に割って、相関がどの時期に生まれているのかを分解しました。
検証方法
- 所定外労働時間(毎月勤労統計)のYoYと、日本製鉄(5401)株価YoYの同月相関
- 残業時間のデータが始まる2013年から直近までを5年前後の窓に区切って個別に計算
- 参考として、辞書ページと同じ「全期間」「コロナ除外」も併記(overtime-stocksの数字=full+0.59/ex_covid+0.39・と一致を確認)
結果:最強の0.59は『コロナの大振れ』の窓に支えられていた
| 期間 | 相関 r | n |
|---|---|---|
| 2013〜2017年 | +0.58 | 60 |
| 2018〜2022年 | +0.70 | 60 |
| 2023〜2026年 | +0.09 | 40 |

5年窓で見ると、最も強かったのは2018〜2022年(+0.70)でした。ただしこの窓は、コロナで残業も鉄鋼株も急落し、その後そろって急回復した時期を丸ごと含みます。残業時間も株価もYoYの振れ幅が大きく揃ったため、相関が高く出ています。コロナ前の2013〜2017年も+0.58としっかり効いていましたが、コロナの大振れが終わった直近の窓(2023〜2026年)では+0.09まで落ち込みました。残業がそれなりに高止まりするなかで、鉄鋼株は世界需要や為替、政策(カーボンニュートラル・買収)で動き、残業の細かな増減とは噛み合わなくなっています。各窓のnは40〜60ヶ月で、5年窓の数字は参考値です。
では辞書の0.59と、コロナ除外の0.39の差は何か
| 区分 | 相関 r | n |
|---|---|---|
| 全期間 | +0.59 | 160 |
| コロナ除外 | +0.39 | 136 |
辞書の見出しに使った全期間+0.59は、上の『コロナの大振れ』窓(2018〜2022の+0.70)を含んだ平均です。コロナ期(2020〜2021)を除くと+0.39まで下がります。これは「残業が鉄鋼株の先行指標か」という話ではなく、相関の水準そのものの話です——平時の連動はおおむね+0.4前後で、0.59という頑健に見える数字は、コロナで両者がそろって大きく振れた局面に水準を押し上げてもらっていた、というのが正直なところです。なお、もともと残業時間は最強のラグが同月=先行ではなく一致指標であることも検証済みで、この記事の窓分解はその性格と矛盾しません。
結論:高い相関も、コロナ期の大振れを割り引いて読む
日本製鉄と残業時間は、平時でも+0.4前後でしっかり連動する、当サイトの検証対象では、比較的高い相関が観察されたペアです。それでも辞書の0.59をそのまま受け取ると、連動の強さをやや過大評価することになります。0.59の一部は、コロナという一度きりの大振れが作った水準だからです。オークマの回と同じ教訓——頑健に見える相関ほど、それが『どの時期の振れ』に支えられているのかを確かめる。当サイトは、効いた窓も弱まった窓も、そのまま記録します。
『現役最強』の看板ほど、一度きりの大振れに寄りかかっていた(メカニズム)
この検証で一番効いてほしくない事実は、統計辞書で「現役最強・最も頑健」に見えた0.59が、実はコロナという一度きりの大振れに水準を持ち上げてもらっていたという点です。5年窓に割ると、最強はコロナの急落・急回復を丸ごと含む2018〜2022年(+0.70)。そしてその大振れが終わった直近窓(2023〜2026年)は+0.09まで崩れます。なぜ大振れが相関を膨らませるのか——相関は「二つの数字が同じ向きに、どれだけ揃って動いたか」を測る指標なので、コロナのように残業時間も鉄鋼株もYoYで一緒に崖から落ち、一緒に急回復した局面では、振れ幅が大きく揃うだけで数字が自動的に高く出ます。連動が「強まった」のではなく、振れ幅が「揃った」だけ。これは京成の0.72や三菱UFJの0.49と同じ、危機の共振が相関を膨らませる構図です。ただし日本製鉄が京成と違うのは、コロナ前の2013〜2017年も+0.58としっかり効いていた点——地力はある。残業が増える=工場がフル稼働=鉄が売れている、という橋は実在します。それでも直近+0.09まで落ちたのは、鉄鋼株が今や残業の細かな増減より、世界需要・為替・政策(カーボンニュートラル・USスチール買収)といった別の太い力で動くようになったから。橋は架かっているが、他の橋のほうが交通量が多くなった、というイメージです。0.59は「平時の地力(+0.4前後)+コロナの上乗せ」の合計であって、地力そのものではありませんでした(因果を証明したものではありません)。
0.59を『残業が増えたら鉄鋼株』と読むのは誤り(数字の読み方)
頑健に見える0.59を、「残業時間が伸びたら日本製鉄を買えばいい」と機械的に受け取るのは危険です。第一に、0.59はr²に直せば約35%ですが、そのrの水準自体がコロナの大振れに支えられており、直近窓の+0.09(r²で約1%)まで剥がれ落ちています。「いま」効いている連動は、辞書の0.59よりずっと弱いのが実態です。第二に、残業時間はもともと最強のラグが同月=先行ではなく一致指標でした。つまり残業の数字が出てから鉄鋼株を取りにいける先行性はなく、両者は同じ月に一緒に動くだけ。第三に、コロナ除外で+0.39まで下がる事実は、0.59の2割ぶんがコロナ期の一度きりの共振だったことを意味します。二度と同じ形で来ないかもしれない局面の振れに水準を借りている数字を、平時の売買ルールに据えるのは筋が悪い。「残業が増えたから買う」ではなく、自分の持ち株が景気敏感という一方向にどれだけ偏っているかを点検する地図——これがこのペアの正しい使い道です。
同じ『頑健さの正体』を、自分で確かめる3ステップ
この記事の値打ちは「日本製鉄の答え」より、頑健に見える相関が、どの時期の振れに支えられているかを見抜く手順にあります。次の型でそのまま確かめられます。
- ①全期間rを5年窓に割り、直近窓を名指しで見る——0.59は窓に割れば+0.70(コロナ期)と+0.09(直近)。直近窓が崩れているなら、その相関は「いま」効いている保証がありません。
- ②大振れ(危機)の窓を特定して割り引く——コロナやリーマンを含む窓は、振れ幅が揃うだけで相関が膨らみます。その窓を除いた数字(ここではコロナ除外+0.39)が、地力に近い水準です。
- ③連動の橋が『今も一番太いか』を問う——残業→鉄鋼という橋は実在しても、世界需要・為替・政策という別の橋が太くなれば、細かな連動は噛み合わなくなります。橋の交通量は時代で変わります。
この3点が揃って初めて、辞書の1行は「現役最強」から「振れの正体まで確かめた数字」に変わります。機械受注×オークマやパーソル×有効求人倍率も、まったく同じ手順で分解した姉妹記事です。1本の結論を覚えるより、この型を持ち帰るほうが、辞書のどのページでも役に立ちます。
基準日:2026年6月13日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:所定外労働時間は厚生労働省「毎月勤労統計調査」(e-StatダッシュボードAPI)のYoY、株価はYahoo Finance(調整後終値)。窓別相関は当サイト算出。辞書の2区分はovertime-stocks検証と同じ値(full+0.59/ex_covid+0.39)。基準日2026-06-13 [一次データ:毎月勤労統計調査↗]