アノマリー検証2026-06-12 公開
米雇用統計の翌日、日経平均はどう動くか——第1金曜480回分を検証
米雇用統計は毎月第1金曜、日本時間の夜(21:30/冬時間22:30)に発表される「世界で最も注目される経済指標」です。東京市場は閉まった後なので、日経平均が反応するのは翌営業日。では、その翌営業日は実際どう動いてきたのか——40年・480回分の日次データで検証しました。なお、米雇用統計は米金利・為替・米株を動かし、その反応が翌営業日の東京市場に波及しやすいため、本記事では日経225の翌営業日リターンを見ています。
米雇用統計の翌営業日は、方向(上がる/下がる)はほぼ誤差でした。ただし値動きの振れは普段より約2割大きい「動く日」。方向を当てにいくより、当夜の米国市場の反応を確認し、逆指値や短期注文が意図せず約定しないかに注意するのが現実的です。(過去検証であり、売買を勧めるものではありません)
| わかること | わからないこと |
|---|---|
| 雇用統計翌営業日に方向の偏りがあったか | 次回の日経平均が上がるか下がるか |
| 普段より値動きが大きかったか | 個別銘柄の売買タイミング |
| 全営業日・月曜平均との差 | 雇用統計の数字そのものの良し悪し |
| 過去にどう構えるべきだったか | 将来の利益 |
検証方法
- 対象:日経225の日次終値(1986〜2025年、40年)
- 米雇用統計の発表日を「毎月第1金曜」として機械的に特定し、その翌営業日(通常は月曜、祝日なら火曜)の前日比リターンを集計
- ※雇用統計はまれに第1金曜からずれる月があります(祝日等)。本検証は「第1金曜」をルールとした近似で、その旨を踏まえて読んでください
- 比較対象:同期間の全営業日平均と、全「月曜」平均(翌営業日はほぼ月曜のため)
結果①:方向は「ほぼ誤差」
| 対象 | 平均 | 中央値 | 勝率 |
|---|---|---|---|
| 雇用統計の翌営業日(n=480) | +0.07% | +0.11% | 53% |
| 参考:全営業日(n=9,824) | +0.02% | +0.05% | 52% |
| 参考:すべての月曜(n=1,851) | -0.04% | +0.03% | 51% |

雇用統計の翌営業日は平均+0.07%・勝率53%。普通の月曜(-0.04%)よりはわずかに良いものの、差はごく小さく、方向を当てる材料にはなりません。直近10年(n=120)でも平均+0.05%・勝率58%と、傾向は同程度でした。
結果②:ただし「振れ」は約2割大きい
| 対象 | 平均変動幅(絶対値) |
|---|---|
| 雇用統計の翌営業日 | 1.20% |
| 全営業日 | 1.01% |
方向は読めない一方で、値動きの大きさ(上下どちらかへの振れ)は普段より約2割大きい結果でした。雇用統計の数字が市場予想から外れると、米金利・為替が動き、それが翌朝の東京に波及する——「方向は分からないが、動く日ではある」というのが実態に近いようです。
| やること | 理由 |
|---|---|
| ① 方向に大きく賭けない | 翌営業日は平均+0.07%・勝率53%で、普通の日(+0.02%)とほぼ同じ。当てにいく根拠が薄い |
| ② 当夜の米国市場の反応を確認する | 東京クローズ後に発表されるため、米金利・為替・米株の反応が翌朝の材料になる |
| ③ 逆指値や短期注文の誤発動に注意 | 値動きの振れが普段より約2割大きい「動く日」。普段より値幅が出やすい |
方向を当てる日ではなく、振れに足をすくわれないための日です。「当てる」より「備える」。
結論:方向のアノマリーではなく「ボラティリティの日」
「雇用統計の翌日は上がりやすい/下がりやすい」という方向の傾向は、40年・480回では確認できませんでした。確認できたのは振れが大きくなりやすいことだけです。発表当夜の米市場の反応を見てから翌朝を迎える、という意味では、方向を予想するより「動きやすい日だと知っておく」ことに意味がある日と言えます。
アノマリーの正体は「方向」ではなく「振れ幅」だった——通説は測る軸を間違えている(メカニズム)
この検証で一番面白いのは、「雇用統計の翌日は上がる/下がる」という方向の議論そのものが、測る軸を間違えていると分かる点です。方向は平均+0.07%・勝率53%で、普通の日(+0.02%)とほぼ同じ——ここには何も無い。ところが軸を「振れ幅(変動の絶対値)」に切り替えると、雇用統計翌営業日は1.20%と、全営業日平均の1.01%より約2割大きい。つまりこの日に本当に起きているのは「どちらに動くか」ではなく「どれだけ動くか」の異常でした。ここには発表のタイミングが効いていると読めます。米雇用統計は東京市場が閉じた後の日本時間夜に出るため、サプライズは寄り付き前に丸ごと溜まる。数字が市場予想から外れると、当夜の米金利・為替・米株が動き、その反応が翌朝の東京にまとめて波及する。良い数字なら上、悪い数字なら下——方向は「その月の数字が予想からどうズレたか」次第なので、40年ならすほど上下が相殺されて平均はゼロに近づきます。一方で「予想から外れると大きく動く」という性質だけは方向に関係なく残るから、平均リターンは消えても変動幅だけが太る。方向のアノマリーではなく、ボラティリティのアノマリーだった、というわけです。もっとも、これはデータの並びに合う筋書きの一つで、因果を証明したものではありません。
この+0.07%を「翌日は買い」と読むのは誤り(数字の読み方)
雇用統計翌営業日の+0.07%・勝率53%を見て「翌日は少し上がりやすいから買い」と機械的に組むのは危険です。まず勝率53%は「ほぼコイン投げ」で、全営業日の52%とほとんど差がありません。平均+0.07%も普通の日(+0.02%)との差はごくわずかで、売買コストを払って取りにいく値ではない。直近10年(n=120)でも+0.05%・勝率58%と傾向は同程度で、方向を当てる材料にはなりません。むしろ本当に注意すべきは反対側のリスクです。この日は変動幅が普段より約2割大きい「動く日」なので、方向を張っていなくても、逆指値や短期の自動注文が意図せず約定してしまう危険があります。「上がりやすい」に賭けて建てた小さな期待値より、振れに足をすくわれる損失のほうがずっと大きくなりうる。この日は「当てる日」ではなく「備える日」——方向に賭けるのではなく、当夜の米国市場の反応を確認し、振れで注文が誤発動しないかを点検する、というのが数字が支持する構え方です。方向のアノマリーとして機械的トレードの根拠にするのは、この記事の数字がはっきり否定しています。
同じ検証を、他のイベント日で自分で再現する
この記事の価値は「雇用統計の答え」そのものより、イベント日を"方向"と"振れ幅"の両輪で見る手順にあります。FOMC翌日、日銀会合翌日、CPI発表翌日——次の型でそのまま自分で確かめられます。
- ①方向(平均リターン・勝率)と振れ幅(絶対値の平均)を必ず両方測る——方向がゼロでも振れ幅が太っていれば、それは立派なアノマリーです。片方だけ見ると「何も無い日」と誤読します。
- ②必ず「比較対象(ベースライン)」と並べる——翌営業日の1.20%も、全営業日の1.01%と並べて初めて「約2割大きい」と言えます。単独の1.20%には情報がありません。
- ③発表時刻と市場の開閉を確認する——雇用統計は東京クローズ後の発表なので反応は翌営業日に出ます。イベントの時刻と対象市場の開いている時間がズレていないか、区間の取り方を先に詰めることです。
この3点が揃って初めて、イベント・アノマリーは「なんとなく動きそう」から「自分で確かめた数字」に変わります。FOMC・日銀会合の翌日やSell in Mayも、まったく同じ手順で分解した姉妹記事です。1本の結論を覚えるより、この型を持ち帰るほうが、カレンダーのどのイベントでも役に立ちます。
基準日:2026年6月12日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:株価データはYahoo Finance(日経225 ^N225・日次・調整後終値)。雇用統計の発表日は「毎月第1金曜」ルールによる近似