業界統計×個別株2026-06-19 公開
スーパー販売額・百貨店販売額と小売株の連動を実測した
「スーパーが売れれば小売株が動く」は自明に思えるが、データはそこまで素直ではない。スーパー販売額と食品小売株はほとんど連動せず(最大 r=+0.37)、百貨店販売額と百貨店株はコロナ期を除けば三越伊勢丹が r=+0.42 まで上がるものの、「強い連動」と呼べる水準ではなかった。
検証の狙い
「スーパーが売れれば、イオンやセブン&アイの株が上がる」「百貨店が好調なら百貨店株が動く」——業績と株価が素直に連動しそうに見える小売2業態を、実際のデータで確かめた。総務省・経済産業省が公表するスーパー販売額(全店・名目)と百貨店販売額(全店・名目)の前年同月比を、対応する上場企業の株価前年同月比と突き合わせ、相関係数で評価した。
検証方法
- 統計:e-Statダッシュボードより「スーパー販売額(全店・名目)」および「百貨店販売額(全店・名目)」(月次・全国)。取得範囲は1990年1月〜2026年4月(データ件数 436 件、前年同月比算出後 424 件)。
- 株価:Yahoo Finance の月次・調整後終値。
- 変換:統計・株価とも前年同月比(YoY・%)に変換し、季節性と水準差を除去。
- 相関:ピアソン相関。統計を0〜6ヶ月先行させてラグ走査し、最も強いラグの値を採用。重なりが 24 ヶ月未満のペアは除外。「コロナ期(2020〜2021年)を除いた窓」でも確認(ex_covid)。
- 判定基準:|r|≧0.4 を連動あり、|r|<0.2 を連動なしの目安とした(事前に固定)。
スーパー販売額 — 結論から言うと「ほとんど効かない」
スーパー販売額の前年同月比と食品小売・ドラッグストア・ホームセンター系株との相関を計算した。最も強かったのはライフコーポレーション(8194)の r=+0.37(ラグ3ヶ月先行)で、目安の 0.4 に届かなかった。
| 銘柄 | 証券コード | 相関 r(full) | 先行 | n |
|---|---|---|---|---|
| ライフコーポレーション | 8194 | +0.369 | 3ヶ月 | 291 |
| イオン | 8267 | +0.190 | 3ヶ月 | 303 |
| アルフレッサHD | 2784 | −0.128 | 0ヶ月 | 236 |
| セブン&アイ | 3382 | −0.111 | 0ヶ月 | 304 |
| ゲオHD | 8281 | −0.229 | 0ヶ月 | 292 |
| マツキヨHD | 3088 | −0.032 | 0ヶ月 | 292 |
※ full 窓(1991年1月〜2026年4月前後)。ラグはスーパー販売額の先行月数。
コロナ期を除いた窓(ex_covid)では全銘柄とも相関がさらに弱まり(ライフコーポ +0.18、イオン +0.09)、「偶然ではない連動」という痕跡は薄い。
なぜスーパー販売額が株価に連動しにくいのか。スーパー大手の株価は景気・金利・M&A・海外展開など多要因で決まる。国内スーパー販売額という一指標の前年比変化分が株価の振れに埋もれてしまいやすい、というのが現時点で考えられる理由だ。ただし、これはあくまで相関分析の結果であり、因果関係を示すものではない。
百貨店販売額 — 百貨店株とはやや連動する(コロナ除くと鮮明)
次に百貨店販売額と百貨店株(三越伊勢丹・高島屋・Jフロントリテイリング)の相関を見る。全期間(full)では r=+0.30 前後にとどまるが、コロナ期を除くと三越伊勢丹が r=+0.42 まで上昇した。
| 銘柄 | 証券コード | r(full) | r(ex_covid) | 先行(full) | n |
|---|---|---|---|---|---|
| 三越伊勢丹 | 3099 | +0.302 | +0.422 | 3ヶ月 | 291 |
| 高島屋 | 8233 | +0.285 | +0.322 | 3ヶ月 | 303 |
| Jフロントリテイリング | 3086 | +0.222 | +0.196 | 2ヶ月 | 304 |
| セブン&アイ | 3382 | +0.207 | +0.206 | 3ヶ月 | 303 |
| イオン | 8267 | −0.072 | +0.113 | 6ヶ月 | 300 |
※ full 窓(1991年1月〜2026年4月前後)・ex_covid は 2020〜2021年を除外した窓。先行月数は full 窓のもの。
三越伊勢丹は ex_covid で r=+0.42 に達し、目安の 0.4 に並んだ。高島屋は +0.32 で「弱い連動」の範囲にある。一方、イオン(スーパーが主力)は百貨店販売額との相関が small(−0.07〜+0.11 程度)で、業態の差がそのまま出ている。
ただし、コロナ前後で数字が変わる点は注意が必要だ。コロナ期を除くと改善する理由として、百貨店・百貨店株ともにコロナで急落・急回復した時期が含まれるとコロナ効果が相関を押し下げる向きに働くと考えられる。どちらの窓が「本来の姿」かは判断が難しい。
「百貨店が売れる = 百貨店株が動く」のか
高島屋・三越伊勢丹の r=+0.28〜+0.42 は、相関係数として「弱い〜中程度」に位置する。株価には金利・為替・訪日客動向・不動産賃料など他の変数も刺さっており、百貨店販売額だけが動かしているとは言えない。関連する訪日外客数との比較で見ると、訪日外客数のほうが百貨店株(Jフロント +0.69・三越伊勢丹 +0.41)と強く結びついている場合が多く、百貨店の業績は「インバウンド頼み」の構造を反映している可能性がある。
業態横断の比較まとめ
| 統計 | 最強ペア | r(full) | r(ex_covid) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 百貨店販売額 | 三越伊勢丹(3099) | +0.302 | +0.422 | 弱い〜中程度の連動 |
| スーパー販売額 | ライフコーポレーション(8194) | +0.369 | +0.182 | 連動なし(目安未達・ex_covidで消える) |
| 百貨店販売額 | イオン(8267) | −0.072 | +0.113 | 連動なし |
※ 判定は |r|≧0.4 = 連動あり / |r|<0.2 = 連動なし / 中間 = 弱い連動 の基準による。
まとめ
- スーパー販売額と食品小売・ドラッグストア株との相関はいずれも |r|<0.4 で、「連動あり」とは言えない結果だった。コロナ期を除くとさらに弱まる。
- 百貨店販売額と百貨店株(三越伊勢丹・高島屋)の相関は full 窓で |r|=0.28〜0.30、コロナ除外で最大 |r|=0.42(三越伊勢丹)と「弱い〜中程度」に留まる。
- イオンは百貨店・スーパー両統計に対して相関が低く、総合小売の多角化が指標連動を薄めていると考えられる。
- 相関係数は「過去にそういう傾向があった」という記録であり、将来の株価を予測するものではない。相関≠因果。データ取得基準日は 2026年6月19日。
基準日:2026年6月19日。本記事は過去データの傾向を示すもので、将来の値動きを予測・保証するものではなく、投資助言でもありません。アノマリー・相関は時期によって効果が変わります。数字の読み方もあわせてご覧ください。
出典:スーパー販売額・百貨店販売額はe-Statダッシュボード(経済産業省・商業動態統計、月次・全国・名目・全店、1990年1月〜2026年4月)。株価はYahoo Finance(月次・調整後終値)。前年同月比 n=236〜304。基準日:2026年6月19日。